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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)3584号 判決

原告

難波喜久子

被告

岡崎英治郎

主文

一  被告は原告に対し、金三八四万二七〇八円及びこれに対する平成二年四月一八日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金二〇八〇万円及びこれに対する平成二年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

足踏み式自転車と普通乗用自動車の衝突事故で、足踏み式自転車の運転者が傷害を負つたとして、普通乗用自動車の運転者兼所有者に対して、一次的に自賠法三条、二次的に民法七〇九条に基づいて、損害賠償を請求した事案である。

一  当事者間に争いがない事実及びそれに基づく判断

1  本件事故の発生

日時 平成二年四月一八日午後七時一〇分頃

場所 大阪市西区靱本町三丁目一番二六号

事故車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪五四ひ八六九四)(被告車両)

態様 南から北に後退した被告車両が、後方を西から東に足踏み式自転車を運転して進行中の原告に衝突したもの

2  被告の責任

被告は、被告車両を所有し、運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、また、本件事故は、後退するに際し、後方の安全確認を怠つた被告の過失に基づくものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて、原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

3  既払い

被告は、原告に対し、本件事故に関する損害賠償として、原告請求外の治療費の池、七四万円を支払つている。

二  争点

1  相当治療期間及び相当休業期間

(一) 原告主張

原告は、本件事故によつて、左肩打撲、左肘挫傷の傷害を負い、平成二年九月三日に左肩腱板損傷が判明し、腱縫合術並びに肩関節形成術が必要である旨指摘されたが、同年一〇月一四日原告左頸部にコブが出現すると同時に激しいめまいと吐き気に襲われ、同月三〇日になつて左頸部の切開術と合せて左肩部の手術が行われたものの、左肩が上がらない状態とめまいが続き、短くとも二四か月の休業と、現在に至る通院を余儀なくされている。

(二) 被告主張

原告のめまい、吐き気は、本件事故による傷害によるものではなく、左頸部の腫瘍によるものであるから、それによる休業、治療は本件事故に基づくものではない。

2  損害

(一) 原告主張

休業損害一六八〇万円(70万円×24、原告は、本件事故当時、麻雀店を経営し、一か月当たりの収入は七〇万円であつたところ、本件事故によつて少なくとも二四か月の通院を余儀なくされた。)、傷害慰謝料三〇〇万円、弁護士費用一〇〇万円

(二) 被告主張

争う。特に、前記の症状の経過からは、休業期間は長すぎるし、所得税の申告額が低額であるから、平均賃金より減額すべきである。

第三争点に対する判断

一  原告の症状の経過

甲五、六、八、乙二ないし九、乙一一ないし一三、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

原告は、本件事故当時六一歳の女性であつて、麻雀店を経営していた。原告は、本件事故によつて、左肩打撲、左肘挫傷の傷害を負い、平成二年四月二四日から日生病院整形外科に通院して、治療を受けたところ、左肘は、同月二六日には完治したものの、左肩は、事故当日のレントゲンでは異常がなかつたものの、痛みは強く、腕を触ることもできない状態で、その後も症状が軽快しないため、同年八月二一日、大阪市立大学医学部附属病院で、造影検査を受けたところ、左肩腱板が損傷していることが明らかとなり、同年一〇月一五日から同年一一月八日までの二五日間日生病院に入院し、当初同年一〇月一七日腱縫合術、肩関節形成術の手術を受ける予定であつたが、左頸部が腫れ、痛みが出現し、頭痛、吐き気、めまいも生じたこともあつて延期され、同年一〇月三〇日右各手術とともに、左頸部腫瘍の摘出術を受けた。その際の判断では、左頸部腫瘍の起源は不明であるが、増殖性筋炎ではないかとの推測がされたこともある。また、担当医の判断では、頭痛、吐き気、めまいが、左頸部腫瘍を起源とするものか定かではなく、めまいは、前庭性のものではないかとのことであつた。その後、同年一一月二〇日まで上肢挙上装具装着後、リハビリ、ホツトパツク、投薬等のため、通院を継続し(平成三年七月二六日までの実通院日数合計一二二日、その後の通院は、同年一二月一三日、二四日、同四年一月一〇日、一七日、二月七日、一四日、一八日、二八日、三月三日、一〇日、一七日、二五日、三一日)、平成四年三月三一日には、肩関節の可動域に制限がなく、痛みも強くない状態で、担当医に、それまで休業していた麻雀店を再開するつもりである旨述べた。

担当医の判断では、症状固定は、同年三月三一日であり、それ以後は、痛み出現時に就労が困難な場合もあるが、通常は就労可能であつて、左肩痛も、将来的にはだんだん薄れていくとの判断であつた。

原告は、本件事故後の平成四年九月、主にめまいの症状から、右麻雀店を処分し、閉店した。

原告は、その後もめまいが継続したので、多根病院、京都府立大学附属病院で検査を受けたが、原因は不明とのことであつた。

原告の、原告本人尋問期日である平成六年四月一八日時点での症状は、肩の痛みとめまいであるが、平成五年の暮ころから、症状は軽くなつてきたとのことである。

二  相当治療期間及び相当休業期間(めまい等と本件事故の因果関係)(争点1)前記認定のとおり、原告の当初の傷病名には、頭部や頸部に関するものがなく、左上肢に関連するものであること、めまいないし左頸部腫瘍が生じたのは、本件事故から、半年程度経過してからのものであること、めまいないし左頸部腫瘍と本件事故との因果関係を肯定した医師はいないこと、めまいと左頸部腫瘍との関連もわからないこと等からすると、めまいが本件事故の後に発生した一事から、本件事故によるものと推認することは到底できない。

そして、前記認定の症状の経過、特に、前記の担当医の判断からすると、原告は、平成四年三月三一日に症状固定したと認めるべきであり、それまでの治療は、相当であつたと認められる。

三  損害(争点2)

1  休業損害 二九八万二七〇八円(小数点以下切り捨て)

前記の担当医の判断からすると、原告は、症状固定日である平成四年三月三一日には労働能力がほぼ完全に回復していたと認められ、それまでの治療経過からすると、左肩ギプスが取れた頃の平成二年一二月四日の後である同年一二月二四日頃(本件事故から八か月が経過した頃)まで労働能力が一〇〇パーセント喪失し、それから、右症状固定日頃である平成四年三月二四日までの一五か月間は、平均して、労働能力が三〇パーセント喪失したと認めるのが相当である。

そして、甲一の1ないし59、二の1ないし60、三の1ないし60、四の1ないし41、七の1ないし7、乙一〇の1ないし4、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故当時、麻雀店ミスターリボンを経営していたこと、平成元年分の所得税の確定申告においては、営業収入を一三五万円余としていたこと、しかし現実には、月数十万円の入金はあつて、相当程度の収入を得ていたものの、正確な帳簿を作成していないので、原告本人においても、具体的所得を把握することはできないことが認められる。右事実からすると、原告の主張する月七〇万円の所得を認めるには足りないが、平成二年賃金センサス産業計企業規模計女子学歴計六〇歳ないし六四歳の平均収入である年二八六万三四〇〇円の収入を得ていた蓋然性が認められる。

したがつて、休業損害は、左のとおりとなる。

286万3400円×8÷12+286万3400円×0.3+15÷12=298万2708円

2  入通院慰藉料 一三〇万円

前記の症状固定日までの入通院慰謝料としては、右額をもつて相当と認める。

3  損害合計 四二八万二七〇八円

4  既払い控除後の損害 三五四万二七〇八円

前記の既払い金七四万円を控除すると、右のとおりとなる。

5  弁護士費用 三〇万円

本件訴訟の経緯、認容額からすると、右額をもつて相当と認める。

6  損害合計 三八四万二七〇八円

四  結語

よつて、原告の請求は、三八四万二七〇八円及びこれに対する不法行為の日である平成二年四月一八日から支払い済みまで年五分の割合の遅延損害金の支払いを認める限度で理由がある。

(裁判官 水野有子)

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